❝仕立てる❞ということ・yurimeのビスポーク譚:スピーゴラ セミブローグ

「ビスポーク」とは「Be spoken」、対話することで誂えることを指す……というのはあまりにも陳腐な書き出しかもしれませんが、対話とはなにも仕様の打ち合わせや採寸だけではありません。
顧客の想いと自身の経験、目指し続ける高み、そして仕立てる現在を繋ぎ合わせる。
常に仕事との対話なのでしょう。

偉そうに知った口がきけるのは、自分自身が自問自答を繰り返して仕事と対話し続けているからです。
なにも職人だから特別なのではなく、皆一様に対話し続けた努力の集大成が何らかの形になり、他者に感動を与えることができる。

今回のビスポークを経て、そんな想いを抱きました。

◆前回までのあらすじ

最初はアトリエに訪問しました。

そして仮縫い。

この「ビスポーク譚」を書き出したとき、タイトルに「夢の実現」とつけたのは大げさではありません。
着道楽の端くれとして、ビスポークで靴を仕立てることはまごうことなき夢の一つ。

それをスピーゴラで叶えられるというのだから、贅沢なことですね。

◆スピーゴラ ビスポーク セミブローグ

ビスポーク譚と言いながらも、拙い文章を垂れ流しても仕方ありませんのでさっそく完成品を見ていきます。

黒の内羽根セミブローグ。
美しいフォルムです。圧倒的な存在感。
ひとめでビスポークとわかります。
それはベヴェルドウエスト、ツイステッドラスト、コバの雰囲気や羽根の開きなど具体的なことではなく、靴の持つ威厳がそう感じさせます。

……とはいえディティールは大切です。
それぞれ見ていきましょう。

◆ディティール

一見すると、巷に流通しているデザインとそう相違は無いかもしれません。
しかし靴が好きならすぐにわかる、とてつもなくこだわりの詰まった仕様。

出し縫いに既に風格を感じる。

最も目をひくのはそのシルエットと、このロングヴァンプの意匠でしょう。
かかとまで伸びるパーフォレーション。
シームレスヒールで、かかとをぐるっとまわっています。

ベヴェルドウエストはグラマラスな印象を演出しています。
この荘厳な雰囲気に圧倒されましたが、鈴木さん曰くラストの大きさとのバランスがかなり良いとのこと。
このあたりももちろん偶然ではなく、鈴木さんが仕事と【対話】することによって産まれた美しさでしょう。

ねじれたラスト、チゼルトウ、せり立つサイド。
「これでもか」というほど感じるスピーゴラの息吹。
僕の語彙力では表現が足りません。ただ見ていると、ゾクゾクします。

横顔もエレガント。
異常なまでに美しいフォルム。

美しく整えられたメダリオン。

素人がとやかく言える領域ではありませんが、革室はまさに極上。
ワインハイマーのボックスカーフです。
ひとくちにアノネイやワインハイマーといっても、そのクオリティは千差万別。
スピーゴラの革質はどうか、などと野暮ったい質問は出る余地もありません。
鈴木さん自身も「うちが使う革はいいものばかりだ」と、自慢する様子ではなくただ事実として述べておられました。

ソールの絞り込まれたウエスト部分には【SPIGORA】の刻印。
間違いなく一流の、最高のクオリティが約束されたブランドです。

◆フィッティング

語りたいディティールは山ほどありますが、キリがないのでフィッティングを見ていきます。

吸いつくような履き心地。
履いている方が落ち着くほど心地よいです。
そして履いてこそ完成されるフォルム。
この靴は本当に、靴として至高です。
観賞用の工芸品ではありません。履いて歩いて完成する芸術品のようです。

サイドから見ても美しい佇まい。
異質ながら気品漂う存在感。

これほどまでに「美しい靴を履いている」という時間に触れたことがありません。
これは単に恰好良いからではなく、僕のためにつくられたビスポークシューズであることに由来する心持なのだと理解しています。

◆まとめとあとがき

このようなどマイナーなブログを読んでいる時点で、おそらく読者諸兄においては僕など足元に及ばない変態達なのでしょう。(尊敬の意を込めて)
であればきっとご理解頂けることかと思います。

この靴に触れた僕の高揚感。
絵画でも骨董品でもなく、「つくられたばかりの靴」に感じる、絵画や骨董品のような芸術性。

良い靴とはなんなのか、探求していく旅がやっとはじまったような。
今まで愛した靴たちを見て、当然霞んで見えるようなことはありません。
寧ろ今まで以上に愛着が湧きました。靴と向き合うことの楽しさを再認識したからです。

良いものとは、その他を蹴落とすのではなく、高めあってなおかつ頂上にあるものなんですね。
顧客や仕事自体を対話をして仕立てるということは、持つものに大きな感動を与えることのようです。

少なくとも僕にはそう感じられました。

この靴に見合うよう、僕自身も美しくエイジングしていきたいものです。


SNSではより等身大のyurimeをpostしています。ひかないでね。
装い、メソッド。

コメント

  1. 匿名 より:

    はじめまして。
    最近某掲示板のガジアーノのスレ、ご覧になってます?
    アンティーブス仕様のチャドウィックを長谷川さんが募集されてて面白い感じですよー。

    • yurime yurime より:

      コメント気づかず申し訳ありません!!!
      最近全然見ていませんでした。
      そんなことになってるんですね。アンティーブス仕様とはかなり気になります。